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相続で委任状が必要になるケース| 代理人になれる人や委任状の作成方法も併せて解説

戸籍集めや口座の残高照会、遺産分割協議など、各種手続は代理人に依頼することもできますが、その際「委任状」が必要になることが多いです。委任状によって代理権限を証明しないと進められない手続があるためです。

 

具体的にはどのような場面で委任状が必要となるのでしょうか。委任状の作成方法などと併せて当記事で解説いたします。

 

委任状とは

 

委任状とは、自分自身で行うべき手続や行為を別の人に代わって行ってもらう(代理してもらう)際、その代理人が本人の意思に基づいて行動していることを証明するための書類です。

 

そこで委任状には、①本来その行為を行うはずであった委任者の情報、②手続や行為を託された受任者(代理人)の情報、③委任する行為の内容が記載されます。

 

なぜ委任状を作成するのか

 

代理人が手続等を行う際、委任状がなければ常に無効ということでもありません。

しかし手続によっては法令で特定の人物にのみ権限を認めているものもあり、そのときは他人が勝手に手続を行うことはできません。
委任状によって「本人の持つ権限を代わりに行使していること」の証明ができないと手続を進められないのです。

 

また、法令上の制限がない場合でも誰かに代行を依頼するなら委任状は作成しておくべきです。第三者からすると「本当に代理人なのだろうか?」と不安に思いますし、後になって委任はしていなかったと主張されるリスクがあります。こうした不安やリスクが残ったままだと第三者が代理人を受け入れてくれず、手続が難航する可能性も高まります。
そこで委任状は、代理人としての立場を証明し、手続を円滑に進めるためにも必要なものといえるでしょう。

 

相続手続を他人に委任できるか

 

相続手続を行う権限を持つのは、相続人本人です。しかし相続手続に関しても他人に委任することは認められます。

 

代理人の候補

 

相続手続に関しての代理人候補は次のようにいくつか挙げることができます。

 

親族

親族に委任することも可能。身近な家族などを代理人とすることには、「費用がかからないこと」や「安心感が得られること」などのメリットがある。

しかし一方で、相続手続に関する専門知識や経験が不足している可能性があり、「手続がスムーズに進まないこと」や「誤った判断をしてしまう」などのデメリットもある。

弁護士

弁護士は、法律の専門家として、各種書類請求や提出、遺産分割協議での交渉から調停、訴訟に至るまで、広範に依頼主のサポートを行うことができる。

他の専門家に比べて費用が高くなる傾向にあるが、その分高い専門性を活かした手厚い支援が期待できる。また、紛争が起こったときに対処できるのは弁護士だけである。

司法書士

司法書士は登記のプロ。法律にも精通しているため相続手続全般についてアドバイスをすることもでき、書類収集などの代行も可能。

特に不動産相続の場面では相続登記が必要になるため司法書士が対応する。

行政書士

行政書士は法律に詳しいが、官公署に提出する書類等の作成や提出の代理をメインとする専門家であり、相続登記や紛争解決などに対して代理人となることはできない。

「遺産分割協議書を作成したい」など、一切トラブルがなく書類の取得や作成だけを依頼したいときに比較的低コストで委任することができる。

税理士

税理士は、税務の専門家であり、相続税の申告を行う場面で主に利用する。相続税の計算や申告書の作成・提出を任せることができるため、遺産の総額が特に大きな場面で税理士を頼ることになる。

 

委任できる範囲に注意

 

専門家に委任をするときは、各専門家の“対応可能な業務”に注意してください。

それぞれ法律でできる業務が定められていますので、その範疇を超えた業務にあたることは違法となります。

 

代表的な手続を整理すると次のように示せます。

 

対応可能な業務

弁護士

・相続人の調査

・遺産の調査

・相続放棄、限定承認の申し立て

・検認手続

・遺産分割協議書の作成

・相続登記

・相続税の申告(税理士業務を行う旨の通知を行った場合のみ)

・紛争解決

司法書士

・相続人の調査

・遺産の調査

・相続放棄、限定承認の申し立て

・検認手続

・遺産分割協議書の作成

・相続登記

・紛争解決(認定司法書士であって、訴額140万円以下に限る)

行政書士

・相続人の調査

・遺産の調査

・遺産分割協議書の作成

税理士

・相続人の調査

・遺産の調査

・遺産分割協議書の作成

・相続税の申告

※実際に対応してくれるかどうかは依頼先によって異なる。

 

弁護士ならほとんどの業務に対応できることがわかります。

ただ、権限は持つものの相続登記については司法書士に、相続税の申告については税理士に任せているケースがほとんどです。

 

なお、これらの手続について委任が制限されるのは“業として”行う場合です。

そのため、報酬を受け取らず1度だけ代わりに対応する親族であれば、相続登記などに対応しても違法ではありません。
とはいえ法律で規制するほど重大な手続であり、専門性が高い手続でもあります。

そのため基本的には手続それぞれに特化したプロを活用するようにしましょう。

 

委任状が必要になるケース

 

委任状は次のようなケースで必要になります。

 

  • 戸籍謄本の取得
  • 遺言書の検認手続
  • 遺産の調査
  • 遺産分割協議
  • 預金口座の名義変更手続等
  • 相続登記
  • トラブルがあったとき

 

詳細は以下の通りです。

 

戸籍謄本の取得

 

相続開始後、まずは相続人の特定が必要です。そのために必要な作業が「戸籍集め」です。

 

被相続人の戸籍謄本等を集めていかなくてはなりませんし、場合によっては被相続人の子や親などの戸籍謄本も集めることとなります。

 

そして戸籍謄本等の請求ができるのは原則として「配偶者」「父母」「祖父母」「子」「孫」などに限られています。

もしここに該当しない親族や専門家に委任するなら委任状が必要となります。

 

遺言書の検認手続

 

もし被相続人が作成した遺言書が自宅などから見つかったときは、その場で封を開けないようにしてください。

自宅などで保管されている遺言書は「自筆証書遺言」と呼ばれるもので、封をされているときは家庭裁判所で検認を受けないといけません。

※自筆証書遺言でも法務局に保管されているものは検認不要。

※公証役場に保管されている「公正証書遺言」では検認不要。

 

家庭裁判所にて、相続人が立ち会って、開封を行います。

 

そうすることで相続人に対して遺言書の存在を周知し、その時点における状態を明確化。今後の偽造などを防ぐのです。

 

この検認について申し立てができるのは、①遺言書の保管者と②遺言書を発見した相続人です。

そこでこの申立人に該当しない方へ委任をするなら、①または②の方が委任状を作成しないといけません。

 

遺産の調査

 

被相続人がどんな財産を持っていたのか、相続手続の一環では遺産の存在とその価値を評価する作業が発生します。

 

自宅で現金を探したりするのに委任状は不要ですが、銀行や証券会社などに対して残高証明書の発行請求をするなら委任状が必要となるでしょう。

 

戸籍の請求や検認の申し立てのように公的な機関が相手ではないため、委任状の必要性など運用方法については相手方によって異なります。

しかしながら、正当な権利を持たない人物に被相続人の個人情報を開示してしまったとなれば社会的な信用を失ってしまいます。
そのようなリスクを考慮し、通常は相続人であることの証明が必要とされますし、その相続人が代理人を立てたのなら委任状の提出も求められます。

 

遺産分割協議

 

遺産分割協議は相続人全員の合意をもって成立するものです。相続人が1人でも欠けていると無効になってしまいます。

 

相続人から委任を受けた代理人が協議を行うことも可能ですが、その場合もやはり相続人から与えられた代理権限を証明するために委任状が必須です。

 

特に遺産分割は相続人間で揉めることも多い手続ですし、委任状なく代理人に対応させるべきではありません。
ただし、委任状があるからといってすべての方が代理人の存在について受け入れてくれるとは限りません。

 

弁護士などの代理人をつけることが法的に問題のある行為ではないのですが、代理人やその他同伴者(同行者)がいることに対し反発してくる可能性もあります
特に専門家とは別の同伴者がいるときは要注意です。必要以上に協議に介入してくると他の相続人からの反感を買うおそれがあり、建設的な話し合いの妨げとなるかもしれません
一方、弁護士が相続人全員に対し平等に相続に関する知識を提供したり遺産分割協議書作成のサポートをしたりする程度の介入であればトラブルも起こりにくいです。

 

預金口座の名義変更手続等

 

よくある遺産であって、遺産分割の観点からも重要視される財産が「預金」です。

 

この預金について、代理人が口座を照会したり、払い戻しをしたり、解約をしたりすることもあります。

 

相続人自身が対応する場合でも、戸籍謄本等から「私が相続人です」ということを証明しないといけません。

代理人が対応するなら、さらに「正当な権限を持つ相続人から委任を受けています」という証明のために委任状は欠かせません。

 

相続登記

 

被相続人が建物や土地を持っていた場合、その所有権も引き継ぐことになります。

不動産の名義変更手続は登記申請によって行うところ、この相続登記を代理で行う場合にも委任状は必要となります。

 

登記申請に関しては司法書士に任せるケースがほとんどですので、司法書士から渡された委任状のフォーマットに必要事項を記入して作成しておきましょう。

 

なお、親族が代わりに対応する場合でも原則として委任状は必要です。

ただし相続人の1人が保存行為として登記を行うときは委任状がなくても問題ありません。

 

トラブルがあったとき

 

相続に関して揉めてしまった場合、弁護士に相続人や親族などとの交渉を委任することが多いです。

このとき委任状が必須となるわけではありませんが、委任を受けたことの証明ができるよう、委任状を作成するのが一般的です。

 

そして遺産分割協議でトラブルがありうまく進められないときはまず家庭裁判所の調停で解決を目指すケースが多いところ、代理人としての弁護士はこの手続きにおいて活躍します。
調停は相続人の方自身で対応することも可能ですが、理路整然と法的な観点から主張することが大事ですし、調停でのやり取りがその後の遺産分割審判にも響いてきますので、プロに委任して対応してもらうことが重要といえます。

 

なお、交渉の代理や訴訟対応などは弁護士の専門分野ですので、委任状を作成したとしても他の専門家に依頼することはできません。

 

委任状がなくてもいい代理人

 

代理人が相続手続に対応するなら、ほとんどの場面で委任状の作成が必要となります。

 

一方、相続人が未成年者である場合の「親権者」や「未成年後見人」、相続人が成年被後見人である場合の「成年後見人」などが対応するなら委任状は不要です。
これらの法定代理人は、委任契約を交わすまでもなく、法令によってすでに代理人としての権限を持っています。

 

委任状を作成する方法

 

弁護士などに委任をするときは、専門家の方から委任状のフォーマットを渡してくれるはずです。

そのため必要事項の記入と内容のチェックしたのち、サインをすればすぐに委任状は作成できます。

 

一方で、専門家を利用しないときは委任を行う方自身で委任状も作成しないといけません。

どの手続においても基本的には次の事項を含めた委任状が必要となるでしょう。

 

《 基本的な記載事項 》

 

  • 委任者の氏名・住所
  • 受任者の氏名・住所
  • 委任する内容
  • 委任状の作成日
  • 各当事者のサイン(署名・押印)

 

そのうえで戸籍謄本の取得や銀行での手続、相続登記を行う場合などでは、別途記載しておくべき事項があります。

 

手続

特筆すべき事項

戸籍謄本等の取得

・取得する証明書の種類(全部事項証明、個人事項証明、除籍全部事項証明、・・・など)

・取得する証明書の数

銀行での残高証明書の取得等

・預金口座の口座番号

・具体的な委任内容(解約なのか、残高証明書の発行なのか など)

相続登記

・登記の目的(「所有権移転」など)

・原因(相続が開始されたことを示す)

・相続人情報

・不動産の表示(地番や家屋番号、所在 など)

 

なお、委任状に決まったフォーマットはありませんので、当事者の特定や委任内容がはっきりと記載されていれば自由な形式で作成することができます。

Staff

資格者紹介

羽鳥 修平

羽鳥 修平Hatori Shuhei / 第二東京弁護士会所属

ご挨拶にかえて

弁護士という仕事は、使命感を持っていそしむべき専門職(プロフェッション)なわけですが、その依頼者(クライアント)の求めにどう対処すべきかについては、二つの異なる考え方が有ると言われています。

ひとつは、「依頼者から具体的な求めがあったら、その求めに真正面から取り組み、そこにポイントを絞って、答えれば良い。それ以上のことをするのは、余計なことであって、弁護士を業とする者の立ち入るべき領域ではない。」という考え方で、もうひとつは、「依頼者から具体的な求めがあっても、それを鵜呑みにすべきではない。依頼者の具体的な求めは、依頼者が抱えている問題を知るための出発点として、注意深く聞くべきだが、そうした聞き取りを通して、依頼者にとって、本当に求めているものは何かを「見つけ出し」、それを依頼者に説明していくというプロセスを通して、依頼者のためにどのような法的サービスを提供すべきか決めるべきだ。」という考え方です。

私は、若い頃から、「見つけ出し」をしようとする癖のようなものがあり、先輩の弁護士から「余計な事をするな、そんなことに首を突っ込むのは弁護士の仕事ではない。」とたしなめられ、腑に落ちない気持ちを持つことが、よくありました。

その後、30年以上がたち、私も、多様なそしてそれなりの数の事案と向き合う機会を持ちました。そうした経験の積み重ねを通して、私は、やはり弁護士たる者、「見つけ出し」から出発することをこそ、重視していかなければならないと、ますます強く考えるようになってきました。

何か問題に直面しているのですか。どうすればよいか、一緒に考えましょう。どうぞ、お気軽にご相談においでください。

経歴
昭和28年7月
東京都文京区生まれ。
昭和51年3月
東京大学経済学部を卒業、同大学院経済学研究科に進学。
昭和54年10月
司法試験に合格。
昭和57年3月
司法修習を終了。
昭和57年4月
第二東京弁護士会に登録。
アンダーソン・毛利・ラビノヴィッツ法律事務所に入所。
昭和61年1月
古田・羽鳥法律事務所に参加。
平成3年9月
独立して羽鳥法律事務所を開設。

Office Overview

事務所概要

名称 羽鳥法律事務所
資格者氏名 羽鳥 修平(はとり しゅうへい)
所在地 〒113-0033 東京都文京区本郷3-6-9 エルデ本郷館3F
連絡先 TEL:03-3814-0527/FAX:03-3814-0537
受付時間 10:00~19:00 土日祝も対応可能(要予約)
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