介護などで相続分が増える「寄与分」とは?特別寄与料との違いについても解説
被相続人のために献身的な活動をしてきた方には「寄与分」が認められる可能性があり、その場合は相続分が増えることとなります。
そのため介護や経済的な援助、家業の手伝いなどをしている相続人は、遺産分割協議において寄与分を主張すると良いでしょう。
また、相続人以外の方に関しても「特別寄与料」として金銭の請求ができるケースがあります。
これら寄与分や特別寄与料の制度についてここで説明していきますので、被相続人に特別の貢献をしてきた方がいるのなら当記事で各制度のことをチェックしておいてください。
「寄与分」は多く遺産をもらえる制度
遺産が受け取れる割合・量については、相続人間の話し合いによって決めることができます。その際参考となるのが法定相続分です。配偶者や子、直系尊属など、被相続人との続柄により、法律上認められる相続割合が違っており、これが一応の遺産分割における基準として機能するのです。
ただ、法定相続分はあくまで立場別に機械的に相続割合を設定しており、個々の事情が考慮されていません。
そこで、個別の事情を踏まえて法定相続分を調整するために「寄与分」の制度が導入されています。
この制度を簡単に説明すると、「被相続人を無償で介護していたなど特別な事情を考慮して、法定相続分より多くの遺産がもらえるようになる制度」といえます。
特別な貢献による財産の維持・増加が条件
寄与分が認められるかどうかは個別の判断を要するため一概にはいえませんが、少なくとも次の条件を満たす必要があります。
寄与分の条件 | 詳細 |
---|---|
①特別の寄与をした | ・通常期待される度合いを超えた貢献があったこと ・夫婦間、親子間、兄弟間などで一般的に想定される程度の貢献であれば認められず、もともと期待される協力扶助義務等を超えたかどうかが重要 |
②財産の維持・増加があった | ・寄与行為により被相続人の財産が減ってしまうのを回避した、財産が増加した、などの事実が必要 ・療養看護など労務の提供により支出が減った場合のほか、生活費を援助していたなど直接的な財産出資でも認められる |
また、当然のことながら上の①と②の間には因果関係が認められないといけません。
つまり「①があったから②の結果が得られた」という関係性が必要ということです。なお、このときの寄与行為をした者は寄与者と呼ばれます。
寄与分についてほかの相続人と争うこともある
法定相続分であれば、被相続人との血縁関係に応じて取得割合が確定させられます。
一方、寄与分については「寄与分の有無」「具体的な金額」が明らかではなく、個別に評価をしていかないといけません。
そこで、ほかの相続人と意見が対立して揉めてしまうこともありますし、寄与者が納得のいく結果とならない可能性もあります。
仮に寄与分が認められたとしても、ほかの相続人が持つ遺留分※は侵害することができないなど実務的な制約が伴うこともあるのです。
※遺留分とは一定の相続人に法律上留保されている遺産の一部のこと。遺留分を侵害したときは、遺留分権利者からの請求に応じて侵害分を金銭で支払わないといけない。
寄与者が受け取れる遺産の大きさ
寄与者が受け取ることのできる遺産の大きさを調べるには、まず寄与分の額について計算し、そのうえで法定相続分の調整を行う必要があります。
各ステップでの計算方法を以下に示します。
寄与分の計算
寄与の内容に応じて算定方法が異なります。
労務提供・財産提供・療養看護に分けるとそれぞれ次のように貢献度合いを計ることができます。
- 被相続人の事業に関する労務提供における算定方法
- 「相続開始時における標準的な報酬額×寄与年数×(1-生活費控除割合)」で計算。
- 報酬額は同種同規模における他の労働者の金額を参考にして定める。
- 生活費控除割合は、被相続人から援助を受けていた生活費の度合いを意味する。
- 被相続人に対する財産提供における算定方法
- 贈与した金銭や不動産などの価格(贈与時点からの価値の変動も考慮)から定まる。
- 不動産の無償貸与であれば「賃料相当額×使用年数」を基準に定まる。
- 被相続人に対する療養看護における算定方法
- 介護サービスにかかる金額(日当)に療養看護を行った日数を乗じて算定。
- 介護サービスの費用負担をしたときはその負担額がそのまま寄与分額となる。
なお、寄与分の額には上限があるためその額を超えることはできません。上限額は「相続財産から遺贈の価額を控除した残額」です。
相続財産を超えて相続することができないのはもちろん、寄与分は遺言書に基づく遺贈にも劣後することになります。
相続分の計算
寄与分が計算できれば、寄与者が実際に受け取れる相続分の計算へと進むことができます。
このとき、遺産の総額から寄与分を差し引いた額が基準額となります。
そのうえで各人の法定相続割合を乗じ、寄与者には寄与分を加算して具体的な相続分が算出されます。
寄与者の相続分 = (遺産の総額-寄与分)×法定相続割合+寄与分の額
寄与者以外の相続分 = (遺産の総額-寄与分)×法定相続割合
例として、相続人が故人の妻と長男・長女、遺産の総額が2億円であったとしましょう。
法定の割合は、妻が1/2、長男・長女はそれぞれ1/4ずつです。そこで寄与分がなければそれぞれ1億円と5,000万円ずつが相続分となります。
しかし長男が特別の寄与をしており、その寄与分が2,000万円であったとしましょう。このときは次のように相続分が変化します。
妻の相続分 = (2億円-2,000万円)×1/2
= 9,000万円
長男の相続分 = (2億円-2,000万円)×1/4+寄与分2,000万円
= 6,500万円
長女の相続分 = (2億円-2,000万円)×1/4
= 4,500万円
寄与分は相続人に認められるものですので、別途請求するのではなく遺産分割協議の際に主張するのが効率的です。
後で寄与分の権利を行使することも可能ですが、相続開始から10年間という期限があることは覚えておきましょう。
特別寄与料との違い
寄与分と似た制度に「特別寄与料」というものがあります。
この制度は、実質、寄与分の権利者を拡張するためのものといえます。被相続人に特別な貢献を行う人物が相続人とは限らず、その他親族の方が献身的に取り組んでいるケースもあるでしょう。しかしながら寄与分は相続人にしか認められないため、相続人以外は寄与分を主張することができないのです。
この問題を解決するために特別寄与料の制度が設けられています。
そこで寄与分との大きな違いは「相続人以外の親族でも主張が可能」という点にあります。
ただし、特別寄与料が認められるためのハードルは寄与分よりさらに高く設定されており、より顕著な貢献でなければいけません。
さらに生活費の援助など財産出資に関しても特別寄与料は認められません。
その他の違いも含めて整理すると次のようにまとめることができます。
《 寄与分と違う特別寄与料の特徴 》
- 相続人以外の親族でも主張可能
- 寄与行為の態様が限定的
- 権利者に認められるのは金銭支払請求権であり、遺産分割協議での調整ではなく別途相続人に対して請求を行うことで回収する
- 権利の行使ができる期間は「相続開始や相続人を知ったときから6ヶ月以内」かつ「相続開始から1年以内」に制限されている
寄与分や特別寄与料を主張したい方、あるいはこれらの主張を受ける相続人の方は、弁護士にご相談ください。
介護を行っていたなど、もし、亡くなった方へ献身的に支援をしていたとしても寄与分等の支払いを受けるのはかんたんではありません。
請求をめぐって親族間でトラブルになるケースもあるため、平和に解決するためのアドバイス、サポートを弁護士に求めることをおすすめします。
Staff
資格者紹介
羽鳥 修平Hatori Shuhei / 第二東京弁護士会所属
ご挨拶にかえて
弁護士という仕事は、使命感を持っていそしむべき専門職(プロフェッション)なわけですが、その依頼者(クライアント)の求めにどう対処すべきかについては、二つの異なる考え方が有ると言われています。
ひとつは、「依頼者から具体的な求めがあったら、その求めに真正面から取り組み、そこにポイントを絞って、答えれば良い。それ以上のことをするのは、余計なことであって、弁護士を業とする者の立ち入るべき領域ではない。」という考え方で、もうひとつは、「依頼者から具体的な求めがあっても、それを鵜呑みにすべきではない。依頼者の具体的な求めは、依頼者が抱えている問題を知るための出発点として、注意深く聞くべきだが、そうした聞き取りを通して、依頼者にとって、本当に求めているものは何かを「見つけ出し」、それを依頼者に説明していくというプロセスを通して、依頼者のためにどのような法的サービスを提供すべきか決めるべきだ。」という考え方です。
私は、若い頃から、「見つけ出し」をしようとする癖のようなものがあり、先輩の弁護士から「余計な事をするな、そんなことに首を突っ込むのは弁護士の仕事ではない。」とたしなめられ、腑に落ちない気持ちを持つことが、よくありました。
その後、30年以上がたち、私も、多様なそしてそれなりの数の事案と向き合う機会を持ちました。そうした経験の積み重ねを通して、私は、やはり弁護士たる者、「見つけ出し」から出発することをこそ、重視していかなければならないと、ますます強く考えるようになってきました。
何か問題に直面しているのですか。どうすればよいか、一緒に考えましょう。どうぞ、お気軽にご相談においでください。
- 経歴
-
- 昭和28年7月
- 東京都文京区生まれ。
- 昭和51年3月
- 東京大学経済学部を卒業、同大学院経済学研究科に進学。
- 昭和54年10月
- 司法試験に合格。
- 昭和57年3月
- 司法修習を終了。
- 昭和57年4月
- 第二東京弁護士会に登録。
アンダーソン・毛利・ラビノヴィッツ法律事務所に入所。 - 昭和61年1月
- 古田・羽鳥法律事務所に参加。
- 平成3年9月
- 独立して羽鳥法律事務所を開設。
Office Overview
事務所概要
名称 | 羽鳥法律事務所 |
---|---|
資格者氏名 | 羽鳥 修平(はとり しゅうへい) |
所在地 | 〒113-0033 東京都文京区本郷3-6-9 エルデ本郷館3F |
連絡先 | TEL:03-3814-0527/FAX:03-3814-0537 |
受付時間 | 10:00~19:00 土日祝も対応可能(要予約) |
アクセス | 東京メトロ丸の内線「本郷3丁目駅」より徒歩6分、「御茶ノ水駅」より徒歩6分 JR線「御茶ノ水駅」より徒歩8分 都営大江戸線「本郷3丁目駅」より徒歩6分 東京メトロ千代田線「新御茶ノ水駅」より徒歩10分 都営地下鉄三田線「水道橋駅」より徒歩11分 |