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道路拡張を理由に立ち退きを求められた場合はどうしたらいい?

「道路を拡張する」との理由で、近の建物を取り壊すケースがあります。もしご自身の自宅がある場所で街の再開発が進められて立ち退きを要求されたらどうすればいいのでしょうか。

 

当記事ではそんな悩みや不安を持つ方に向けて、立ち退きに応じるべきかどうか、また応じるにしてもどのように交渉をするべきか、について解説しています。補償金(立ち退き料)の決まり方や税金の問題についても言及していますのでぜひチェックしてみてください。

 

対応のポイント

 

道路の拡張に伴い立ち退きを求められたときの対応として、まず押さえていただきたいのは次に掲げるポイントです。

 

  • 立ち退きを求められてもすぐに承諾せず熟考すること
  • 補償金(立ち退き料)の金額が適正であるかよく調べること
  • 専門家の意見も取り入れて検討すること

 

ポイント①すぐに立ち退きを承諾しない

 

立ち退きについての話し合いを持ち掛けられたとき、よくわからないまま相手方の言い分を受け入れるのは危険です。詳しくさまざまな説明を受けることになると思われますが、立ち退きが必要とされる理由であったりそのスケジュールであったり、詳しく把握して立ち退くことに問題がないかどうかを確認しておくべきです。

 

住民説明会を開いたり個別の説明会を実施したり、行政が立ち退きを要求するときには説明義務を果たすことが求められます。不明点を残したまま「おそらく問題ないだろう」「とりあえず承諾しておく」などと問題を後回しにせず、担当者に詳しく質問する、あるいは弁護士などに相談しておく、などの対応を取りましょう。

 

拒否をし続けることは可能か

 

「納得いかないなら承諾をしない」という姿勢を持つことは大事ですが、公共事業の一環で求められる立ち退きをいつまでも拒否し続けることは難しいです。

 

事業内容にもよりますが立ち退きを強制される可能性もあります。法律に基づく公共事業の場合、特定の要件を満たすことで強制執行が法的に認められることもあるためです。

 

なお、土地収用に関する強制執行が実施されるまでには厳格な手続を要し、拒絶後いきなり実施されることはありません。裁判所での手続を経て、審理を受け、強制執行をすることが違法でないとのお墨付きを受けてからとなります。その間数ヶ月はありますので、慌てる必要はありません。

 

ポイント②補償金が適正であるかよく調べる

 

一方的に立ち退きを求められたのでは住民への負担があまりに大きすぎます。そこで補償がなされるのが通常です。道路として提供することになる土地の価格や迷惑料、土地上の建物を再度立てるための費用、転居費用、その他土地上にある造作物なども補償の対象です。

 

そこで提示された補償金の内容を丁寧にチェックし、適正な価格となっているかどうかをよく調べましょう。行政が相手となる場合、根拠なく増額を求めて交渉をするのはあまり効果的ではありませんが、合理的な金額になっていないときは補償額の変更を求めることで増額できるケースもあります。

 

ここで知っておきたいポイントは「補償価格の決まり方」です。

 

補償価格の基準は「正常な取引価格」であり、近隣の土地の相場に近い価格が算定の基準となるのが基本的な考え方です。土地の形状や商業施設との近さ、経年劣化など、土地の価値を左右するさまざまな要因を総合的に考慮して算定していきます。課税上の評価額ではありませんので注意してください。

 

また補償には塀や門、フェンス、樹木などの分も含まれるべきです。工作物も一つひとつ考慮していき、保証金額の適正性を評価していきましょう。

 

迷惑料も算定する

 

住む場所を道路の拡張によって追われることには精神的な負担も伴います。そこで単に土地や土地上の建物などの価格を補償するだけでなく、迷惑料についても考慮されるべきです。

 

ただ、迷惑の程度は客観的な指標を用いて測定することができないため、金額に置き換えるのも簡単ではありません。

 

傾向としては、例えば思い入れが強いほど迷惑料の金額は大きくなると考えられます。子どもと長年一緒に暮らしてきた家、代々受け継がれてきた土地であるなど、思い出深いストーリーがあるほど金額も大きくなりやすいですし、その他「客観的に見て、その土地や家で住むことに大きな意味があった」と思わせるような事情の有無も重要です。

 

交渉をする方法

 

補償金の交渉をするときは「提示する金額の根拠を明確化すること」が大事です。

 

根拠なく「もっとお金を出してほしい」と伝えるだけで増額を期待することはできません。こちら側が提示する金額の方が客観的に見て適正であることを、理由とともに示さないといけません。引っ越し費用などの実費に関しては見積書で示すことができますし、過去の類似する事例を参考にして妥当な補償金額を提示することも有効でしょう。

 

当該土地で店舗の運営をしていたのであれば「営業補償」の要求も検討します。移転に伴って事業がこれまで通り継続できなくなってしまいますので、ただ移転に伴う実費を出してもらうだけでは損失の方が大きくなってしまいます。
事業ができなくなることへの補償として、その期間中に見込まれる利益、休業中も発生する固定費、従業員への給与、移転後の売上減少に対する補填なども含めた金額を計算しましょう。

 

なお、交渉時に話し合った内容は書面に残しておくことが大事です。話題となる事柄・情報量が多く、何を話したか忘れないようにしないといけませんし、何より後になって言い分にすれ違いが起こってしまうと大変です。トラブルにつながる危険性がありますので、書面あるいは音声で記録を残しておきましょう。

 

ゴネ得は期待しない

 

立ち退きに協力せず、合理的な根拠も示さずにただただ高額な補償金を求めても、金額が上がることはありません。いわゆる「ゴネ得」と呼ばれるものですが、これに期待して金銭を要求することは避けましょう。

 

ゴネ得を一度認めてしまうと今後も同じような事例が続く可能性があると行政も考えるため、単に拒否し続けるだけで金額が上がっていくといったことはありません。

 

そのため金額についての交渉をするにしても、提示する金額にきちんと根拠を付ける必要があるのです。

 

補償金にかかる税金に注意

 

納得のいく補償金を得られたとしても、次は税金の問題に注意しなくてはなりません。

 

基本的には所得税が課税されるのですが、所得の種類は受け取る金銭の意味合いにより異なります。

 

譲渡所得

資産の消滅による対価として補償金を受け取ることになるため、多くの場合「譲渡所得」として所得の計算を行う。

そこで受け取った補償金から取得費および譲渡費用を差し引いて、さらに譲渡したのが土地や建物であって特別控除を適用できるときは控除も行い課税譲渡所得金額を算定する。

特別控除額は5,000万円であるため、その条件を満たすときは取得費と譲渡費用を差し引いた額が5,000万円以下になれば非課税で取得できる。超過分については所得税の課税対象となる。

事業所得

立ち退きを求められる土地で事業の営業をしている場合であって休業補償を受け取るときは、「事業所得」として所得の計算を行う。

休業補償としての金額から必要経費を差し引いて残った金額が事業所得金額であり、所得税の課税対象になる。

一時所得

譲渡所得や事業所得などに該当しない、賃貸住宅からの立ち退きに対する補償金などは「一時所得」として処理する。

この場合、補償金から最大50万円の特別控除などを差し引いて一時所得を算定する。

 

道路拡張による立ち退きを求められ、補償金を受け取ったのが法人であるときは、所得税ではなく法人税の課税対象として計算を行います。

 

道路拡張が行われる場合の基本的な流れ

 

道路拡張が行われる場合、まずは施行をする国や自治体が、交通の需要や安全性、人口のことなどさまざまな状況を踏まえて計画を策定します。そして現地での調査、測量、当該地域に対する整備方針の説明などを行います。

 

その後、立ち退き対象となる地権者と補償金や移転時期などをめぐっての交渉が始まります。行政の提案する内容への納得、あるいは地権者側からも条件を提示してすり合わせができれば、契約を交わし次のような情報を書面に取りまとめていきます。

 

  • 施行者の名称や所在地
  • 地権者の氏名や所在地
  • 立ち退きに関する合意
  • 立ち退き料の額と支払方法、期限
  • 移転時期 など

 

いったん契約を締結してしまうとその後簡単にはなかったことにできません。契約書の内容に不明な点があるときは必ず担当者に質問するか、弁護士に聞いて解決しておきましょう。

 

契約後、定めた時期がやってくれば立ち退きをし、拡張対象となる用地の分筆、所有権移転登記の申請。そして物件の移転が確認できたのちに補償金の支払いがなされます。

 

立ち退きのタイミング

 

道路拡張に伴う立ち退きが行われる場合、その移転時期は事案によりさまざまですが、おおよそ1年ほどを目安として考えると良いでしょう。交渉を受けた時点から来週・来月といった短い間隔で立ち退きを求められることは通常ありません。

 

短期間すぎると立ち退きに応じようにも次の住居を用意することができません。そのことを相手方も理解していますので、ある程度の期間が設けられます。

 

もしその期間に納得がいかないとしても、交渉をすれば良いのです。どれほどの猶予期間を求めるのか、なぜその期間が必要なのか、よく検討してから交渉を行いましょう。

 

狭い道路の拡幅整備の場合

 

都市計画とは別で、狭い道路の拡幅整備が行われることもあります。ここでいう「狭い道路」とは幅4m未満の道路のことであり、建築基準法では家を建築するとき幅4m以上の道路に2m以上敷地が接していることを求めていますので、この要件を満たせるように整備を行うのです。これが拡幅整備です。

 

拡幅整備はスムーズな通行のためだけでなく、災害が発生したときの被害を最小限にとどめるためにも重要なことです。ある程度の道幅がなければ緊急車両が通りにくくなってしまいますし、また日照の確保や風通しなどへの配慮の意味も含まれています。

 

この場合も基本的には整備の方針・内容の決定に始まり、道路の状況を現地で調べたり土地の測量などを実施したりします。その後工事内容の説明が行われ、工事の影響を受ける地権者などへの説明が行われます。

 

補償額についても納得ができれば契約へと進み、道路拡幅に必要な用地を買収。そして道路拡幅工事開始となります。

Staff

資格者紹介

羽鳥 修平

羽鳥 修平Hatori Shuhei / 第二東京弁護士会所属

ご挨拶にかえて

弁護士という仕事は、使命感を持っていそしむべき専門職(プロフェッション)なわけですが、その依頼者(クライアント)の求めにどう対処すべきかについては、二つの異なる考え方が有ると言われています。

ひとつは、「依頼者から具体的な求めがあったら、その求めに真正面から取り組み、そこにポイントを絞って、答えれば良い。それ以上のことをするのは、余計なことであって、弁護士を業とする者の立ち入るべき領域ではない。」という考え方で、もうひとつは、「依頼者から具体的な求めがあっても、それを鵜呑みにすべきではない。依頼者の具体的な求めは、依頼者が抱えている問題を知るための出発点として、注意深く聞くべきだが、そうした聞き取りを通して、依頼者にとって、本当に求めているものは何かを「見つけ出し」、それを依頼者に説明していくというプロセスを通して、依頼者のためにどのような法的サービスを提供すべきか決めるべきだ。」という考え方です。

私は、若い頃から、「見つけ出し」をしようとする癖のようなものがあり、先輩の弁護士から「余計な事をするな、そんなことに首を突っ込むのは弁護士の仕事ではない。」とたしなめられ、腑に落ちない気持ちを持つことが、よくありました。

その後、30年以上がたち、私も、多様なそしてそれなりの数の事案と向き合う機会を持ちました。そうした経験の積み重ねを通して、私は、やはり弁護士たる者、「見つけ出し」から出発することをこそ、重視していかなければならないと、ますます強く考えるようになってきました。

何か問題に直面しているのですか。どうすればよいか、一緒に考えましょう。どうぞ、お気軽にご相談においでください。

経歴
昭和28年7月
東京都文京区生まれ。
昭和51年3月
東京大学経済学部を卒業、同大学院経済学研究科に進学。
昭和54年10月
司法試験に合格。
昭和57年3月
司法修習を終了。
昭和57年4月
第二東京弁護士会に登録。
アンダーソン・毛利・ラビノヴィッツ法律事務所に入所。
昭和61年1月
古田・羽鳥法律事務所に参加。
平成3年9月
独立して羽鳥法律事務所を開設。

Office Overview

事務所概要

名称 羽鳥法律事務所
資格者氏名 羽鳥 修平(はとり しゅうへい)
所在地 〒113-0033 東京都文京区本郷3-6-9 エルデ本郷館3F
連絡先 TEL:03-3814-0527/FAX:03-3814-0537
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